江戸絵画において、花や草木は細部まで驚くほど正確に描かれており、数世紀を経た今でも、その種類を容易に特定できる。こうした緻密な描写は、江戸時代の人々が植物に向けた情熱を物語っている。園芸文化が興隆し、植木屋が栄えて、苗木の行商が行われ、長屋の軒先にまで鉢植えが並んでいたのである。役人が主催する品評会には、植物愛好家や専門家が参加し、接ぎ木して育てた椿や牡丹などの新種の花々を披露して、多くの見物人を集めた。春には、日本中の人々が花見に繰り出し、儚くも美しい桜の花を愛でた。
江戸絵画では、こうした植物の背景に金箔が施されていることが多い。草花が生き生きと描かれている一方で、一面に貼られた金箔は、大地や空、あるいは庭や森を表してはいない。なぜ画家たちは、緻密に観察して丹念に描き出した植物を、あえて現実とはかけ離れた、幻想的な空間に配したのだろうか。